◆角川文庫版「彩雲国物語十四 黒蝶は檻にとらわれる」(イラスト/弥生しろさん)
2022年2月下旬発売。
(収録外伝「地獄の沙汰も君次第」
*ビーンズ版の番外編に収録済みのものです)
「14巻発売だ。『間違って担当さんが2冊ぶん送ってきたんじゃないかナァ……』と原稿を受け取った作者が一縷の望み(?)をもったくらい分厚い。ごめん。
今回、目次には載ってないけど外伝の後に数ページおまけの話(「幸せのカタチ」)がつづくから(*ビーンズ文庫にも入っていたものです)最後までどうぞ、よろしく。
(羽羽が「しっかりリオウ殿ー」と励ましながら、どこで入手したものか応援うちわ〈←「笑ってー♡♡」と書いてある〉をふっている)
今巻は紅家編の後編。
「悪夢の国試組」の一人、刑部尚書・来俊臣(らい・しゅんしん)が初登場する。
今回原稿チェックをしてた時期がハロウィーンあたりだったんで、手を入れるときも作者は墓地…月夜…マイケルジャクソンとか浮かんで筆がすべっ……げっふん。
何言ってんだか意味不明だって?だよな…。…読めば…わかる…と、思う。
今回は少しだけど、紅州の紅山(こうざん)が物語に登場する。
モデルは中国の世界遺産「黄山」(こうざん)。
「五岳(ごがく)から帰来して山を見ず、黄山から帰来して岳を見ず」
(中国には5名山がある。それを登ればほかの山は見る気が失せる、けれども黄山に登るとその5名山すらどうでもよくなってしまう)この言葉は物語の中でも使わせてもらった。名実ともに天下一の名峰だ。
作者もガイドブックやDVDに見惚れながら書いたものの、黄山に行ったことがない…というか作者はへろへろの体力不足をナントカしないと黄山どころか高尾山だって行ったっきり戻ってこれないぞ、あいつ。おうち時間の中、スクワットを始めたら10回で膝ガクガクの筋肉痛になってたからな…。
また、作中ある人が口ずさむ「天の将(まさ)に大任をこの人に降(くだ)さんとするや、必ずまずその心志(しんし)を苦しめ、その筋骨を労せしむ」の言葉は『孟子』から。作者はすっかり忘れてて、これ何からとったんだっけ…???状態だった。
*同じく作中に出てくる渡り蝶の話は、北のカナダから遥か南のメキシコを目指して北アメリカ大陸を縦断する蝶、オオカバマダラがモデルになってる。
メキシコでは、この蝶とともに死者の魂が還ってくる、といわれているそうだ。魂を運ぶ蝶、だと。
だからこの蝶の渡ってくる季節になると、メキシコでは「今年で魔法の消えることがないように」祭壇をもうける習わしなのだとか。
(注*南から北へ渡るほうのオオカバマダラもいます)
この14巻を書いているさなか、作者がたまたまつけたテレビでこのオオカバマダラの深夜ドキュメンタリーをやっていた。生態をふくめて、まるで「彼」みたいな蝶だと、作者はドキリとした。
南の大地へたどりつけずに、道半ばで力尽きて次々脱落していく蝶たち。
いろんな言葉やシーンがふうっと浮かんできた。
……雪乃がぐずぐず悩みながら書いているとき、あるいは書けずにいるとき、そんな不思議な「たまたま」が起こることがある。まるっきり思いがけないところにひょいと貴重なものが落ちてる、そんな偶然の積み重ねで物語が出来上がっていく。それは今も変わらない。まあだから道草したり、勉強しないでよそ見しちゃったり休んだり、現実逃避に走ったりしても、そこに大事なものがあるかもしれないから、全然いいんだ!
…マテ、これ、俺っていうより雪乃が言わせてないか!?(ぶつくさぼやくリオウ)
この世には、知らなければ想像もできないような多くの別の世界と物語が当たり前に存在してるんだと、彩雲国を書いてた八年で幾度となく作者は思ったけれど、この渡り蝶の物語を知ったときも、その一つにふくまれる。らしいぞ*
今回はいろんな変化が起こる巻だから、ほとんど内容に触れられないけど。
笑ったり、どきどきしたりして、楽しんでくれたら俺も…嬉しい。
(うーさまも嬉しそうにキラキラの応援うちわをふる)
もう一つの外伝「地獄の沙汰も君次第」、これが紅家編の巻に入ったのはほんとに偶然だったとはいえ、おかげで丸ごと紅家編みたいな一冊になった。
この外伝で、前の巻ではわからなかった百合姫の素性、紅黎深や李絳攸との出会いと関係性が明らかになる。
百合姫と黎深の過去を描いた中編だ。
若かりし頃の鄭悠舜や黄奇人たちも登場する。どんないきさつで百合姫が紅黎深と結婚することになったのか…シリーズでも屈指のコメディだ。
(「違いますラブコメですよリオウ殿!」とうーさまがコソコソ耳打ちする。リオウ、変な顔をする)
……ラブコメ…???最後百合姫かなりかわいそうだったじゃないか」
(羽羽「男女の仲というものは本人同士にしかわからぬものなのでござりまする」)
リオウ「ふーん……ギャグ…でなくラブコメ…らしい。楽しんでくれたらいいな」
(羽羽「笑ってー♡♡」の応援うちわをリオウに見せながら、ふる)
リオウ、珍しくあざやかに微笑みを浮かべ、読者へ優雅に一礼。
「……本の中で逢おう」