+++表紙イラスト+++
蘇芳「こぼれ話…って、いうほどのもんでもないけど。
せっかくだから、ちょっとだけ。まずはイラストについて」
秀麗「角川文庫で新装版を出すことになって、新しく絵を弥生しろさんにお願いすることに決まったのよね。
当初、5巻までしか発売確定してなかったから、5巻まではメインどころの5人をそろえることに」
蘇芳「……ってことは、俺が表紙に出ないって未来もあったのね……?」
静蘭「まったくもって読者のおかげさまですね、タンタン君。
由羅先生の描く私も好きですが、弥生先生の描く私も、同じくらい好きですね」
秀麗「私も。どっちの私も私って思えるの。
ビーンズ文庫は各巻の内容を想起させる表紙を由羅先生に描いていただいたけれど、
角川文庫版は巻の中身にこだわらず『それぞれのキャラクターをイメージする絵』をお願いしたの、作者がむりをいって。いただいたときは、私もすごく嬉しかった」
蘇芳「なるほど。そんでこれらの表紙絵になったわけね。一巻につき、1人って、贅沢だよなぁ。ビーンズ版の俺らを知ってるひとは『あ、これ、○○?』っていう楽しみがある……、と、いいよなあ」
秀麗「ちょっといい男すぎない5月発売のひと!って思うけど」
静蘭「お嬢様、『イメージ映像』ですから」
蘇芳「あんたほんと相変わらずだなこのタケノコ家人!」
秀麗「冗談よタンタン、ほんとにタンタンだなーって思うもの、この表紙。
あと、3巻と4巻は対っぽくなっているので、並べてみても素敵よ。
これ、どっちを左にするか、右にするかでも、印象がちょこっと変わるの」
静蘭「向かい合っているか、背中合わせで歩いているか。…あのお2人らしいですね」
秀麗「で、あなたと燕青も、並べられるようにつづけて出そうってなったのよ、静蘭。相棒セットで」
静蘭「……。。。
お嬢様、この燕青、加工技術を駆使しすぎじゃないですか?この国の表現でいう『盛りすぎ』というやつでは?」
秀麗「燕青が求める大盛りはご飯のみだわよ。
物語の大きな区切りとなる8巻の表紙は父様で、次章に入る9巻は悠舜様で飾ろうっていうのは、担当さんと作者で決めたみたいね」
蘇芳「…この9巻さ、ほんと悠舜様って感じの表紙だよな…。優しいほほえみに差す木陰のゆらめきとかさ…。
最終巻まで、誰を表紙に出すか、決まってんの?…誰かこぼれるよなあ」
静蘭「こぼれますね。全員は不可能ですから。
私はもう出たので、いいですが。
登場順もふくめて担当さんが頭を悩ませながら、今考えているので、お楽しみ、ですね」
秀麗「次の表紙は、誰かしらね?」
*おまけ*
秀麗「実は表紙に関しちゃ、8巻と9巻を境に、ひそかに変わってるとこがあるんだけど。
誰か気づいてくれてるかしら……」
蘇芳「タイトルね。第二部に移行するとき、タイトルデザインを変えたんだよな。
…よく見りゃだいぶ華やかになってるんだけど、デザイナーさんの腕のおかげで超なじんでる…。
ついでに、タイトルの色あいも担当さんが毎度すげー悩んで悩んで選んでます」
+++番外編の収録について+++
蘇芳「5巻までは本編のみだけど、6巻からは番外編が一篇ずつ収録されてんのな」
秀麗「そう。6巻以降もださせてもらえることになったとき、
『ビーンズ版での番外編の4冊はどうしよう?』っていう問題があって」
蘇芳「『番外編』って銘打ってるけど、本編とリンクしてる短編・中編、結構あるよなぁ…。俺の知らない話、いろいろあるな…」(めくる)
静蘭「作者は当時、文庫を書きながら、『ザ・ビーンズ』という小説雑誌にこれらの短編を折々載せてもらっていまして。
文庫を書いて、短編書いて、また次の巻を書くとやってたもので、いきおいリンクする話になってしまったようです。
ついでに、最初の短篇『幽霊退治大作戦!』は、デビュー作「はじまりの風は紅く」が出るより前に雑誌に載ったんですよ」
蘇芳「は? 1巻でるより先に、絳攸サンと藍将軍の、この短編が載ったってこと?」
静蘭「そう。とはいっても、確か、雑誌発売の一か月後くらい?には、1巻出たんですが。時期的に『誰も読んだことのない物語の、番外編が先にでる』という、今考えてみれば謎なことに……」
秀麗「まだ出会ってもいない私と劉輝の話は書けないしねぇ…読者とも出会ってないんだもの私と劉輝…」
蘇芳「……なのに、この短編からして、いろんな伏線入ってない……?」
静蘭「雑誌掲載の短編は、そもそも文庫になるかどうかも、わからないので。
なら逆に自由にあれこれ入れてみようと作者は思ったようで。
それと『雑誌を先に読んでくださったかたが、本編を読んで「あ、雑誌を先に読んでて、ちょっぴり得をした」と少しでも感じてくれるものを』と、こうなったようですよ。
あと『短編は、本編より笑える話がいい』というのを意識していたようですがね」
蘇芳「……確かにトンデモあほ話多いけど……本編より笑えねぇ話も……あんたと燕青の過去話とかさ……なんでもありません!もうタケノコの旬すぎたよ!」
静蘭「タケノコが育つと、竹槍になりますよ、いいんですかタンタン君」
蘇芳「いいわけあるかー!」
静蘭「そんなこんなで、本来『本編と切り離して楽しむ話』のはずの番外編が、本編の伏線をふくんでいき、『短編と文庫を読んでいくと、色々つながる』ということになってしまったわけです」
秀麗「当時リアルタイムで雑誌を追いかけてくださった読者のかたがいらしたら、お礼を申し上げます。嬉しかったです、作者も私たちも。
当時も、『文庫だけ読む派』の読者のために、番外編を出すタイミングを考え考え刊行していたんだけど…。ビーンズ文庫のカバー袖の既刊案内も、番外編と本編をわけないで、発刊順で記載したり…。
けどやっぱり『番外編は本編を全部読み終えたら、読む』ひとが多いと思うのよね……」
蘇芳「だよな。ふつうは先に本編のつづきを読むもんな…」
静蘭「で、まわりまわって本題に戻りますが。
そんなわけで、角川文庫版で6巻以降出せることになったときも、『本編とリンクしている番外編の扱いをどうするか』が、担当さんの悩みどころで。で、考えた結果、
『6巻以降、それぞれの巻末に一話ずつ番外編を載せていく』スタイルになったんです」
秀麗「掲載順は、ビーンズ版番外編の順番と同じです。
やってみたら『本編の流れにうまいことはまる』エピソードが結構あって、『不思議ですね』って担当さんと作者が首をかしげてるわ。…ほんと、不思議ね」
静蘭「ずれているものもありますけどね。
楽しんでもらえたら、いいですね、お嬢様」
+++++
秀麗「あら、お饅頭、もうないわね。白湯も。とってくるわ、待ってて二人とも」
秀麗が露台の椅子から立って、屋敷の中へ入る。
蘇芳は最後のまんじゅうを食べ、静蘭はお茶をすすった。
5月の鳥の、さえずりがきれいに世界に響いて、あたたかな日の中にとけていく。
蘇芳は秀麗の椅子と、その前にある飲みかけの、秀麗の茶碗を眺めた。
「なつかしーな……」蘇芳の口から呟きがもれた。
秀麗のこしらえた饅頭を、ひどくゆっくりかじった。なくならないように。
「おじょーさんの二胡も、ずいぶん聞いてない気がするわー…。
ほんとに、ずいぶん、ずいぶんと、長いこと……」
静蘭は珍しく意地悪をいわず、静かな笑みを浮かべた。
「お嬢様に言ってみたら、どうですか、タンタン君。弾いてくれると思いますよ、『蘇芳』……」
蘇芳はしばらくしてうなずき、惜しみながら饅頭の最後のかけらを口に入れた。
不思議ね、と秀麗がさっき言った。そのなつかしい声が耳にこだました。
すべてが日にとける幻のようにも思え、これほど確かなものはないとも思えた。
――不思議ね……。