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拓人「彰、装丁ってなんだ?」
彰「本のデザインのすべてのこと。
イラストレーターさんからいただいた表紙イラストとタイトルをどんなふうに合わせるか、フォント、色、位置。帯の位置、キャッチコピーとのバランス。
本文の紙選び、中扉のデザイン、目次(『永遠』は目次なし)のデザイン、製本の形式をどうするか、もろもろ全部。
もってみて、気づいた点あるか?」
拓人「カバーがやわい。東京創元社のミステリで凶器になるようなやつじゃないぞ」
彰「誰を狙うつもりだお前。
お前が言ってるのは、ハードカバー(上製本)だな。一番頑丈なつくりのやつ。絵本にこれが多いのは、子供たちがいっぱいめくりまくってもバラけない頑丈さだから。
俺たちのは仮フランス装(表紙を織り込んだもの)ってやつ。
カバーめくると、折り紙みたいに縁が織り込んであるだろ?ハードカバーより耐久性はないけど、優しいイメージになる。あと、若干お手頃価格になる!
もう一つ、もっとやわいソフトカバー(並製本)と呼ばれるのもある。
どんな製本形式にするのか、選ぶのも編集さんとデザイナーさん。
ぜんぶひっくるめて『装丁』。
『文庫本』はいろんなルールがあって、デザイナーや編集者が「こういう本、つくりたい!」ってつくりこむ余地が少ない。
たとえば、文庫だと『表紙しかイラストを入れられない』制約がある。
『永遠の~』みたいに、裏表紙までぐるっと全部イラスト・中村至宏さんの一枚絵を使おう、というデザインはしたくてもできない。
俺たちの本みたいな『単行本』だと、自由がきく。
編集さんとデザイナーさんは情熱全開でセンスを発揮してくれるんだ。
たとえば、裏表紙までぐるっと一枚絵でいく場合も、「背表紙」はどうするか?
背表紙だけ別の色にしてタイトルを置くか?一枚絵に重ねてタイトルを印字するか?
表紙のイラストを映えさせるために、どこに、どんなフォントのタイトルを置くか?
すべて、編集者とデザイナーさんにかかってる。
だから俺は、『単行本』って見るのが大好きなんだ」
数馬「ふーん。俺、中身しか気にしなかったわ」
拓人「俺も」
彰「……だろうな。作者も、プロになって初めて、編集者やデザイナーさんの装丁にかけるプロフェッショナルの熱意を知って脱帽した口だ。
物書きは『本を書く』けど、編集者やデザイナーさんは『本をつくる』のが死ぬほど大好きなんだなって思う。『手の中にあるこの本ていうもの、丸ごと大好き』って感じだ。
『この物語を、こんな風に飾って、こんな本に仕上げて、読者に届けて、読んでもらいたい』っていうあの情熱の深さとこだわりは作家以上だと思う。
なので、今回は装丁のこともちょこっと紹介させて」
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+表紙・カバー+
彰「さて、俺たちの物語『永遠の夏をあとに』(帯付き)。
これ、ぱっとみてデザイナーさんのこだわりがすぐわかるのは、
『タイトルの位置』」
拓人「帯にタイトルがある、ってか帯の下にある、っていうの?」
数馬「これ見た別の出版社の編集者さんがさ、帯を見て一言雪乃にこういったぜ。
『まるでタイトルが、キャッチコピーみたいに見えて、素敵ですね』って」
拓人「言われてみれば!」
彰「『単行本』だから可能なデザイナーの技だ。
『文庫本』だと『タイトルと作家名は帯の上に入れなくてはならない』ってルールがある。だから文庫本じゃ、この場所にタイトルと作家名を置けない。
『単行本』でも、ふつうは『帯の上』にタイトルを置く。タイトルが目立つしね。
けど、俺たちのデザイナーさんは、この位置を指定したわけだ。
本当に帯のキャッチコピーみたいに見えるよな」
拓人「それに中村さんの絵ときれいな色、タイトルや作家名で隠れる部分がないから、絵葉書みたいじゃん」
彰「そう。デザイナーさんはこのきれいな絵を全面に押し出してくれたわけだ」
数馬「俺、もういっこ気づいたぜ。
カバーをとると…そうそう、このシックな色も俺の好み。表紙のとこ、左下にちっこく英語版タイトルだけ置かれてるじゃん。
(小ネタ:東京創元社は翻訳も多く出版していることもあり、日本の作家でも出版時に英語タイトルをつけてくれることがあります。
東京創元社の場合、単行本では英題がなくとも、文庫本には英題を入れるページがあるため、文庫化の際には必ず英題が入るとのこと。【*これは東京創元社が、もともと文庫本で翻訳小説をだすのがメインの出版社であったためとのことです。←雪乃担当情報】
本作『永遠の~』の英題は『Leaving the Eternal Summer』。帯にちっちゃく1つと、またカバー裏の数馬の言葉の位置にさりげなーく印字されています)
で、背表紙。
ふつう、カバーと同じ位置にタイトルと作家名がくるじゃん?けど下の位置にまとめてデザインしてあんだよ。これ、かっこいいよな。カバーとんないと気づかない」
彰「小説の単行本のカバーって、案外とらないかもな。
漫画本はカバーとると漫画家の別の絵があったりして、読者もわりとめくるけど。
小説の単行本も、ためしにカバーとってみると、『おお!』って思うデザインって、あるぞ~。デザイナーさんや編集さんがこだわってつくったやつは、特に。
ある大作家の単行本、シンプルなカバーを何気なくはずしたら、シックな黒猫のイラストが表と裏表紙に一匹ずつ置かれてて、めちゃくちゃおしゃれだった」
数馬「ファッションみてぇ。『見えないところこそ手抜きしねーぜ』みたいな」
彰「そうそう。『好き好き大好き、本』ていう愛がよくわかる…。
『「なんか好き」だな、この本もってるの』と思う本があったら、それはもう編集者やデザイナーの愛がテレパシーで伝わりまくっている証だと思います」
拓人「愛か…」
彰「愛です」
彰「『永遠の夏をあとに』を担当してくれたデザイナーさんは、西村弘美さんといって、
単行本『骸骨を乞う』と単行本『エンドオブスカイ』のデザイナーさんでもある。
(『エンドオブスカイ』はタイトルフォントまで西村さんが自分で作ってしまったという!また『エンドオブスカイ』の『帯』はイラストレーター鈴木康士さんの手による特別バージョン。これをかけると、なんと表紙が『別の絵』になります!)
作者はいつもどんな風な表紙になるのか、すごく楽しみにしてるんだ。
もっているかたは、見比べてみてね」
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+紙・ページ+
彰「本の中身に使用される紙やページも、編集者やデザイナーさんが選ぶ。
出版社によっては、その出版社独自の紙を特注したりするらしい。
紙にも、各出版社ごとの『色』がでてるってか、こだわりをもってる」
拓人「紙って…文字がうつりゃあ、いいんじゃないの?」
彰「ってわけじゃない。
たとえばな、『目に優しい色の紙』ってのがある。
若い時には気になんなくても、歳をとると、目って見えにくくなる。
純白の紙は、一見きれいだろ。
でも、年配の人の目には、ページの色が白すぎると、白が反射して文字が見えにくくなったりするらしい。すると、物語に集中できなくなる。
誰もが本に没頭してくれる紙、目に優しい、みんなが読みやすい色は、茶系やクリームがかったような、『落ち着いた色』って聞いたことがある。
わけても、出版社の『顔』でもある、各出版社の社名を冠した文庫の紙は、幅広い年代層の読者がいるから、クリームや茶系統の紙が多いと思うよ。
『誰もが好きな本を、ぞんぶんに読みふけることができるように』っていう出版社の誇りと願いがこもってる。
そういうのは、良質の紙になるから、紙の値段が高くなっちゃうんだけど…。
その紙の色を誤解されて、『紙が茶ばんでいる。古い紙を使うなんてけしからん』って文句が多くなって、真っ白い紙に変えざるをえなかった、こともあるらしい。
そうなると、年配のかたには光って見づらくなって、読みたくても読めなくなる。
誰より本の好きな編集さんや出版社は、大好きな本のために、それを買う読者のために、いろんなことを考えてつくってる。愛と、誇り高さ、だよな」
拓人「お前、本、ほんとに好きなんだなあ……」
彰「……一人でいてもさ、本があるだけで、いろいろ忘れさせてくれるからな」
(『永遠の夏をあとに』のひものしおりがぴょこんと出ている本の上部を、彰は指で、端から端までなぞった)
彰「紙のところで、もう一個小ネタ。
本のしおりのひもがでてるこの上の部分。本を閉じると、一見ページが不ぞろいに見えない?ページが飛び出してたり、ひっこんでたりみえない?
でも、逆側、帯のある、底の部分のほうは、なめらかにページがそろってる。
わかる?」
拓人「あっ、ほんとだ。なんで?」
彰「ここも、編集さんとデザイナーさんの『こだわり』がでる部分。
この上部の、『ページが不ぞろいに見える』のは、『わざと』そういうデザインにしてるんだ。専門用語だと、『天アンカット』っていう(*『天』は本の上部のこと)。
底部と同じように、上部もなめらかに、でこぼこなしのデザインにすることもできる。
つまり、これは俺たちの編集さんたちが本のためにセレクトしたデザインなわけ。
本好きって、俺と作者もそうだけど、この『アンカット』、『不ぞろいっぽいページの本』に超愛着があったりするんだよな~~。『すっげぇ本っぽい』雰囲気がでてさ、しびれるわけですよ。
文庫本でもそう。
角川ビーンズ文庫や新潮文庫NEXのほうは、上部もなめらかに裁断されてととのえられてる。若い読者が多いから、「見た目のきれいさ」を重視してるのかもしれない。
本家の新潮文庫のほうはアンカットだ。いやさそれこそ新潮文庫、『この不ぞろいなページと、このページの色と手触りこそ新潮文庫だよね!!』っていうね。岩波文庫もそう。
角川文庫版の『彩雲国物語』は、なめらかに裁断されてる。
でも角川文庫でも昔の作家さんは不ぞろいに見えるデザインがセレクトされてる。
今の角川文庫は、なめらかに裁断されたデザインに統一されていて、このアンカットデザインは昔の角川文庫本にしかないらしい。貴重かもな。
紙の選び方にも、かかわってくれる人や出版社の個性がキラッと光ってるわけです。
…なので、『不ぞろいに見えるページの本』は『わざと』で、
『雑に作られてる』わけでも『製本ミス』でもなくてですね、デザインなのです。
いろんなデザインの、本の醸し出す雰囲気をぜひ楽しんでください」
拓人「ね、熱心だな彰…」
彰「だって、もし『製本ミス』などクレームが入ってしまってさ、だんだんなめらかな裁断の本ばかりになったら、さみしいんだもん!本好きとして!
読めりゃあいいじゃん、ていう顔しないように、拓人」
拓人「お、おう」
彰「他にも、あっちこっちに、本づくりにたずさわる人たちのこだわりが宝石みたいにひそんで、きらきら輝いてます。
じっくりながめて、他の本とあれこれ見比べてみるのも、楽しいんじゃないかな」
拓人「あ、俺、しおりがひもタイプなのが地味にうれしかった」
彰「俺も!」
(*『しおりのひも」は、『スピン』が正式名称とか。作者もこの投稿書きながら、編集さんの教えを受けて初めて知る…←ずっと『ひも』と呼んでいた作者)