「六月」 茨木のり子(詩人)

 

どこかに美しい村はないか

一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒(ビール)

鍬(くわ)を立てかけ 籠(かご)を置き

男も女も大きなジョッキをかたむける


どこかに美しい街はないか

食べられる実をつけた街路樹が

どこまでも続き すみれいろした夕暮は

若者のやさしいさざめきで満ち満ちる


どこかに美しい人と人との力はないか

同じ時代をともに生きる

したしさとおかしさとそうして怒りが

鋭い力となって たちあらわれる

(茨木のり子詩集「見えない配達夫」〈童話屋〉より)