歳を食うほど自分だけ守って逃げ切りたがる。
昔のわしらは、そのツケを食わされるのが嫌で嫌でしょうがなかった。
俺らが変えなきゃこのままだと思った。今はわしらが歳をとり、お前の番がきた。
何かを変えたければ、自分で変えろ。
わしがつくってやれるのは、そのための時間だけだ」
迷っていても、今、何かが間違っていると思うのなら。
(『紫闇の玉座 下』より)
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霄太師「……」
茶太保「昔を思い出したか?霄」
羽羽「なつかしいですの。
…わたくしたちは、何か一つでもよいほうに変えられたのでしょうかの…。国の若者たちに、少しでも時間をつくってやれたのでしょうかの…?迷い、道をさがし、変われるだけの時間を。宋が劉輝陛下を城からお逃がしになり、希望をつないだように」
茶太保「『それが俺の役目だろ』と、宋ならいうでしょうね。その言葉の本当の意味を自分で気づきもしないで、体現してしまうやつです。…宋のいう『守る』は、『自分だけ安全地帯にいる』なんて意味はありえませんからね」
櫂瑜「こんな世界は何かが間違っていると思い、戦うと、もっと苦しくなる。そんな相手を守るような若者でしたね、宋は昔から。理屈など抜きにして。いくつになっても変わらずに。
…霄、何をおかしな顔して私たちを見ているのです?飲まないのですか、せっかくこうしてまた会えたのに?茶鴛洵、霄に一献ついでおやり。もうそろそろ宋もくる頃合いではないかな…」
霄はいつのまにか盃を手にしていた。なつかしい、青年姿の鴛洵が、そばにいた。目が合うと、鴛洵は唇をゆるめて笑い、霄の盃に酒をつぐ。
盃の中で青年姿の自分の顔がゆらめいた。霄は酒を飲んだ。頭の芯がくらりとした。
足音が聞こえた。
霄と鴛洵が去った後も、1人でずっと三つの盃を用意して酒を飲んでいた友人の足音だった。
鴛洵がもう一つの盃を手渡してきた。宋のぶんの盃に、今度は霄が酒をそそいだ。
櫂瑜と羽羽の顔つきから、きっと自分は「死ぬほどおかしな顔」をしているのだろうと、霄太師は思った。